東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1251号 判決
(一) 昭和二十一年八月十三日控訴人下浦が、同控訴人所有で控訴人阿部フミ名義の下に所有権登記のなされていた東京都台東区浅草芝崎町二丁目二番地所在木造瓦葺平家建一棟建坪三十三坪七合五勺を、代金九万九千円で被控訴人に譲渡すると共に、右建物の敷地を含めた百坪の土地につき、賃料一ケ月一坪につき金二円五十銭毎月末払と定めて借地権利金二万五千円を以て被控訴人のため借地権を設定し、右代金及び権利金計十二万四千円は、被控訴人においてこれに相当する木材(当時の統制法規によつて統制の対象となつていた木材に該当するや否やは後に認定する)を以て同年十二月末日迄に支払うことを約したことは、当事者間に争がない。尤も右契約を以て法律上売買と解すべきや交換と解すべきやについては、当事者間に争があるけれども、右契約において控訴人下浦の給付すべき財産権に対する対価として、一定の金額を表示して居る点、その他成立に争のない甲第一号証(家屋並びに地上権売買契約書)原審における被控訴人及び控訴人下浦各本人尋問の結果(いずれも第一回)を総合して契約当事者の意思を探究すると、前示契約は控訴人下浦において被控訴人に対し、前記建物の所有権を移転し且つその敷地百坪につき借地権を設定する反対給付として、被控訴人がそれぞれ前示一定の金額を支払うこと、ただ右代金の支払に代えてこれに相当する木材を給付することを約したるに止るもので、その性質売買と解すべく、相互に金錢所有権にあらざる財産権の移転を目的とする交換契約であるとは解し難い。
(二) 宅地建物価格統制令(昭和十五年十一月二十一日勅令第七八一号)が昭和二十一年九月三十日まで効力を有していたことは、昭和二十年十二月二十日法律第四十四号国家総動員法及び戦時緊急措置法廃止法律、並びに昭和二十一年勅令第百八十一号(右法律の施行期日を定める勅令)により明らかである。従つて本件契約における約定の建物の代金額が、右統制令によつて定まる価格を超えるか、或は前示借地権設定に対する権利金授受の契約が、前同様昭和二十一年九月三十日まで効力を有していた昭和十五年十月十九日勅令第六七八号地代家賃統制令に違反するとすれば、それぞれ価格の統制法規に反する契約とはなるが、物資の配給統制法規違反の場合と異なり契約自体を全面的に無効であると解すべきでなく、右統制額の範囲内において売買契約は有効に成立すべく、また権利金の授受契約は法の禁圧する行為として無効であつても、これがため直ちに借地権設定契約そのものまでも無効と解すべきでない。